多様な進路志望をもつ静岡県立遠江総合高校の生徒たち。進学先・就職先との「緑」を何よりも大切にしながら歩みを進めてきた、同校の進路指導の在り方とは。※この記事の内容は取材当時(2022年2月)のものです。
静岡県|静岡県立遠江総合高等学校
〒437-0215 静岡県周智郡森町森 2085番地
2009年、静岡県立周智高等学校と静岡県立森高等学校を統合し、静岡県7番目の総合学科の高校として開校。周智郡森町唯一の県立高校として、地域に根ざした教育活動を行っている。
越塚 茂生 先生
教諭進路指導主事
利用サービス
進学相談会・ガイダンス企画/運営
高校生と大学・専門学校のかけ橋として活動してきた50年以上の実績をもとに、全国各地の会場・高校内・オンラインで進路相談会やガイダンスを実施いたします。
「横のつながり」が強み!総合学科ならではの学び
静岡県立遠江総合高等学校では「人文社会」「自然科学」「食品園芸」「機械技術」「電子情報」「ビジネス」「ライフデザイン」の7つの系列を有し、生徒たちは2年次からそれぞれの系列に分かれて学ぶことになる。この学校の魅力の1つが「系列どうしの横のつながり」だ。過去には、静岡県教育委員会高校教育課が主催する専門・総合学科高校のアピールの場「ふじのくに実学チャレンジフェスタ」において、「食品園芸」系列と「ビジネス」系列のコラボレーションに取り組んだ。農業系のブースで食品園芸系列の生徒たちが作ったフロランタンを販売するにあたり、ビジネス系列の生徒たちがアイデアを出したのだ。その販売方法が、製品の製造工程の動画を販売ブースで流すというもの。動画は、ビジネス系列の生徒たちが食品園芸系列の授業を取材して撮影・編集したという。他の農業単科校のブースにはなかったアイデアで、大きな注目を集めた。まさに、総合高校ならではの「横のつながり」が生んだ学びの成果といえるだろう。
同校では系列に分かれたあとも自由選択科目を設定しており、他系列の科目や、自分の興味関心に応じた科目を選ぶことができる。生徒たちは、専門性を高めると同時に、幅広い学びや他系列との交流が可能なのだ。
「遠高16の力」を念頭に体系的なキャリア教育
遠江総合高校には、全ての教育活動において念頭におく、育成すべき「遠高16の力」がある「伝える力」「聴く力」「自ら行動する力」「課題を発見する力」「選択する力」等、教員・生徒・保護者を対象としたアンケート結果をもとに設定したものだ。進路指導においても、もちろん「16の力」の育成を念頭においている。進路指導を6年間にわたって担当する、進路指導主事の越塚茂生先生にお話を伺った。「本校の生徒たちの進路希望は、就職が約6割、進学先も専門学校から国公立大学まで多岐にわたります。それゆえに進路指導の難しさも感じていますが、たくさんの方に協力をいただきながらやっています」と話すとおり、同校では5年前から、隣接する森町役場とも協定を結ぶなどして体系的なキャリア教育を実践している。
総合的な学習の時間(2022年度からは「総合的な探究の時間」)を使って、1年次で「職業人インタビュー」、2年次では地域の防災や子育て等のテーマごとに探究する「地域探究」や「インターンシップ」、3年次では、1.2年次での学びを進路実現にからめた「卒業研究」という形で成果を残す。学習過程で「伝える力」の育成を意識し、生徒のアウトプットの機会を増やしていることも特徴だ。このことが面接スキルのアップにもつながっているという。各年次での学習内容を変えながら、今後も続けていく取り組みだ。
年に一度の進路イベント「遠高マッチングフェスタ」
越塚先生が進路指導に携わってきた中で最も大きな改革ともいえるのが、2年次の2月に実施する進路イベント「遠高マッチングフェスタ」の企画だ。2021年度で4回目の実施となる(新型コロナウイルス感染拡大の影響で翌年度4月に延期、写真は2020年度2月に実施時の様子)。第4回では、生徒の進学先候補となる専門学校や大学35校、就職先候補となる企業58社が参加し、生徒たちと直接顔を合わせて話をする予定だ。2年次2月の恒例イベントとして定着しつつある同イベントだが、企画の一歩を踏み出すまでには躊躇もあった。開校したばかりの高校に学校や企業が集まるのか不安があったという。
しかし当時、地元の企業の人事担当者が直接来校し、生徒の求人をするケースが多かったのも事実。越塚先生は「本校の生徒が必要と言ってくれる企業を集めて、何かできることはないか考えた」と話す。大規模な進路イベント運営のノウハウをもつチエルコミュニケーションブリッジ(旧 昭栄広報)との打ち合わせを重ね、他校の進路に関するイベントの実施状況を参考にしながら、2018年度、第1回の開催にこぎつけた。
実際には、当初からそれぞれ約40もの学校と企業が参加し、参加した学校・企業の声を聞きながらイベントを成長させてきた。例えば、第3回の実施後に行った企業へのアンケートで生徒からの積極的な質問を望む回答があったこともあり、第4回に向けては、これまでよりも時間をかけた事前指導を行った。結果的に翌年度への延期が決まったが、中止ではなく延期になったことにも、このイベントへの期待が見て取れる。「それだけ、クラス担任をはじめ多くの職員が、マッチングフェスタを経て生徒の進路意識が変わることを実感しています」と越塚先生。今後もこのイベントが生徒たちのターニングポイントとなっていきそうだ。
大切にしたい、人との縁・人への接し方
参加する学校や企業側も毎年楽しみにしているという「遠高マッチングフェスタ」。その背景には、越塚先生が大切にしてきた「縁」がある。「毎年、担当者の方とお会いしていると、『こういう学校・企業にうちの生徒を送りたいな』という想いが生まれます。特に企業に関しては、その想いがより強くなっているのも事実です」越塚先生自身が常に心掛け、生徒たちにも指導しているのが「人への接し方」だ。「初めて進路担当になったときの会議で他の先生方にもお願いしたのが、来客への対応についてです。来校してくださった相手にはいつも気持ちよく帰っていただきたい。実は、ある企業の担当者から『1日の最後は遠江で終わりたい』と言われたことがあるんです。うれしかったですね。何よりの褒め言葉だと思っています」。進学先・就職先との縁を大切にし、進路指導・進路選択に真摯に取り組む先生方・生徒たちの姿勢がそのまま、同校の魅力となっているといえるだろう。今後も「遠高マッチングフェスタ」がその縁をつなぐ場、生徒たちの成長の場として歩みを進めていくことが期待される。